研究テーマ

ぽち袋 ─「心ばかり」という心遣い─

今年も、余すところ1ヵ月と少し。来年のカレンダーや手帳を追いかけるように、店先にはそろそろ「ぽち袋」が並び始める頃です。この時季に並ぶぽち袋は、お年玉用が圧倒的に多いのですが、本来は少額のお礼や心付けを、お金をむき出しにせず手渡すための小袋。今回は、感謝の気持ちをスマートに伝えるその心遣いに触れてみましょう。

お正月のぽち袋

子どもにとって、お正月の大きな楽しみは、お年玉です。家族が少しよそ行きの顔になり、改まって「おめでとう」の挨拶をした後にいただくお年玉。小さな袋に入ったそれは、普段とは違う特別な日の象徴でもあります。
そもそもお年玉は、新しい年の初めに年神様から「年魂(としだま:新年の魂)」を分けていただくもの。毎年一年分の力を授かるために、年神様の依り代(よりしろ)である鏡餅の餅玉を、家長が家族に「御年魂」「御年玉」として分け与えたものだといいます。かつてのお年玉には、神饌(神へのお供え物)である熨斗鮑(のしあわび)が必ずといっていいほど添えられていたのも、そんな由来によるのでしょう。いつの頃からか餅玉がお金に替わっても、その心は、小さな袋に受け継がれているのかもしれません。

心ばかり、という形

ぽち袋は、もともと関西地方で茶屋遊びをするとき、芸妓さんや舞子さん、茶屋で働く人などに与える心付けのことでした。なぜそれを「ぽち袋」と呼び始めたのか、その由来は定かではありませんが、「ぽち」は漢字で「点」と書き、小さい点を表わす言葉。「これっぽっち」という表現もあるように、わずかばかりの謝礼を入れた小さな袋とでも言えるでしょうか。いわば、感謝の気持ちを「心ばかり」と差し出す、粋な心遣い。奥床しさと同時に、ゆとりを感じさせる習慣だと思いませんか。

自分だけのぽち袋

お正月近くなると趣向を凝らした既成品のぽち袋が店頭をにぎわせますが、江戸から大正時代にかけては、自分のオリジナルぽち袋が盛んに作られていたといいます。もともと粋な心遣いから始まったものですから、その図案もユーモア溢れる個性的なものがたくさんあったとか。年賀状を手作りするような感覚で、ちょっと真似をしてみるのも、楽しそうですね。
昔ながらの手法でいくなら、芋版や版画、手描きの絵文字など。パソコンを駆使して作るのも、現代人の特権といえるでしょう。実際、パソコンで型紙を起こし、家紋と名前の朱印を押し、インクジェット用の和紙にプリントアウトして作るという人もありました。

折りを使ったぽち袋

現在のご祝儀袋は、簡単な白封筒に水引というスタイルが一般的ですが、もともとの様式は紙を折り重ねるものだったといいます。紙を折る方法は「折形」と呼ばれ、平安時代から歌や手紙を贈るときに用いられ、室町時代には武家の贈答用の作法として発達。室町幕府には「折紙方」という役職まであったといいます。そして紙を折ることで、相手に贈答の心を伝えようとする所作は、地方ごと家ごとに、さまざまに発達し伝承されてきました。そんな贈りものの原点に立ち戻り、折りのポチ袋を手作りしてみるのも楽しそうです。

海外でも、手のひらに小銭を含んで握手しながらチップを渡したり、宿泊先のホテルで朝のベットメイクのお礼に枕の下にチップを忍ばせたりと、感謝をあらわす所作があります。お国柄や土地柄の違いはあるものの、いずれも、渡しているのは金銭ではなく感謝の心。そして、その心を伝えるために、いつも懐に小さなぽち袋を忍ばせておくのが日本人の習慣でした。そんな先人たちの奥床しさと豊かさを、もう一度私たちの暮らしの中に取り戻してみたい気がします。

みなさんは、どんなときに、どんなぽち袋を使われますか?
ご意見、ご感想をお寄せください。

※くらしの良品研究所の研究員が、折形ポチ袋の型紙を制作してみました。ダウンロードして、ご自由にお使いください
 ぽち袋の型紙(PDF:500KB)
 ぽち袋の折り方(PDF:890KB)

研究テーマ
生活雑貨

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