研究テーマ

「ものの余白」について

茶室にしつらえられた掛け軸や一輪挿し、茶器などを見て、素直に美しいと感じるのはなぜでしょう。もちろん、もの自体の美しさもありますが、余計なものが何もない空間に置かれることで、輪郭が際立ち、その価値がいっそう引き出されるということもあるようです。いい器も、美しいお椀も、整理整頓された空間があってこそ際立つもの。かつて、日本人の暮らしには、こうした美しさが多くありました。

少ないもので丁寧に暮らす

ものを少なく置くとは、ものを選ぶということ。そして、もののまわりに余白があるということが大事です。余白は余韻を生み出します。ものが氾濫している現代の暮らしを見ていると、豊かさとは、ものの量に反比例するのではないかとさえ思います。ものが多くなることによって、見えなくなるものがたくさんあるからです。少ないもので丁寧に暮らせたら、それはとても素敵なこと。丁寧とは、心配りです。「置く」という行為を意識的に行うこと、とも言えるでしょう。こうした行為によって生まれる余白を、現代の暮らしの中でも実現してみたいものです。

収納スペースが余白をつくる

部屋の中にものを散乱させないことで、日々の暮らしは、ずいぶんとすっきりしたものになります。こうした視点で現代のマンションの間取りを見てみると、いかにも収納スペースが足りないようです。ものを持たずに暮らしたいと思っても、必要なものは必要。通常、新築のマンションでは床面積の10%以上を収納にとる慣例があるようですが、使い勝手なども含めて十分とは言えません。かつての日本で余白を楽しむゆとりがあったのは、家のバックヤードに蔵のような収蔵室があったからこそ、ということを忘れてはいけないでしょう。

「みんなで考える住まいのかたち」でも、折りに触れて、収納に関するいろいろな提案をしてきました。

余白を楽しむには

今回訪問したお宅の間取りは、実際のお宅をリノベーションした例です。収納スペースを大きく確保していますが、その分、寝室は小さくしています。寝るだけの寝室には余計なものを置かず、すべてのものを収納室に格納。そしてそれ以外の部屋も多くのものを置かずにすっきりと過ごしていました。

もののない空間を持つ。そしてそこに、本当に大切なものをひとつだけ置く。それは、余白を楽しむという、日本人ならではの美意識と言えます。その実現のためには、ゆとりのあるバックヤードを備えていくことが必要です。多くの人は大きな空間を持ちたいと望みますが、いくら大きな空間でも、ものがはみ出してしまっては余白を楽しめません。大きな空間より、ものが少なくてすむ空間を持つ──そんなことを意識してみては、いかがでしょう?

研究テーマ
生活雑貨

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