子育て・教育のほとりで
子どもが一般の学校ではないオルタナティブスクールに通うようになってから、子育てや教育に興味を持ち、学ぶようになりました。学校外の「多様な学び」や「不登校問題」「海外の教育事情」など、子育て・教育まわりのさまざまな話題を取り上げて紹介していきたいと思います。

不登校の問題はどこに?

2018年08月15日

134,398人

上に揚げた数字が何のものかご存じですか。実はこれ、文部科学省が2017年に発表した不登校児童生徒の数なのです。これ以外にも、学校に行ったり行けなかったりの「さみだれ登校」や、教室ではなく保健室などに通う「別室登校」をしている子がいるので、実態でいえば学校に通えずに苦しんでいる子どもの数はもっと大きなものになるはずです。小中の比較でいえば、中学校の方が圧倒的に多く、生徒全体の約3%が不登校になっています。ほぼ1クラスに1人の割合ですね。
さて、これだけ大きな人数となり、社会問題にもなっている不登校ですが、問題の本質がどこにあるかは意外と明らかになっていません。不登校は、何らかの理由で"子どもが学校に通えなくなっている"状態です。では、なぜそれが問題になるのでしょう。もし仮に、法律で「学校に通わなくてもよい」ことになっていたら、そもそも不登校は問題にもならないはずです。そう、不登校の問題は、国民のほとんどが"子どもは学校に通わねばならない"と信じ込んでいるところにあるのです。

義務教育の本当の意味

日本には「義務教育」の制度があります。実は、この「義務」という言葉がくせ者で、この言葉によって"不登校は許されない"と思い込んでいる人が多いのです。教育は憲法によって保障された「権利」であり、決して「義務」ではありません。子どもが学校に行きたくないと言ったら、本来、無理やり登校する必要はないのです。
では、なぜ「義務教育」などという言葉があるのでしょう。ここでいう「義務」とは何を意味しているのでしょう。その答えは、憲法の中にありました。

【憲法第二十六条】
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

この二十六条の条文を読むと分かりますが、義務教育の「義務」は、子女ではなく保護者に課せられたもの。つまり憲法は、子どもの教育の「権利」を保障するために、保護者に子どもを学校に通わせる「義務」を課しているのです。
では、国はなぜそんな義務を保護者に課しているのでしょうか。その理由は、今の「日本国憲法」が誕生した時期と無関係ではありません。

戦後復興と教育

今の憲法は昭和22年の5月3日に施行されました。それは日本が戦争に負けて2年も経っていない時期であり、主要都市のほとんどが空襲で焼かれ、人々が途方に暮れていた時代です。憲法と同時期に誕生した「教育基本法」の前文にこんな一文があります。「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」。
そう、敗戦で焦土と化した日本は国家を立て直すために、何よりも教育が大切だと考えました。それゆえに憲法で教育の「権利」を保障し、中学校までの無償教育を実現したのです。ところが、ここで懸念されるのは、果たしてすべての親が子どもをきちんと学校に通わせるかということでした。戦後まもなくは経済も混乱し、生きていくだけでも精一杯。「学問なんてどうでもいい」と言って、子どもを働きに出してしまう親が出てくるのを危惧したのでしょう。それを防ぐために、保護者に対して子どもに教育を授ける「義務」を課したのだと思われます。

学校に行かない自由

戦後70年以上が経ち、日本は豊かな国になりました。いまはもう戦前のように、子どもを働かせて学校に通わせない親はほとんどいません。本来、子どもの権利を守るためにあったはずの「義務」が、いつのまにか学校に通えない子どもを苦しめる「義務」に変わってしまったのです。
平成28年12月、国会で「教育機会確保法」という新法が成立しました。この法律では「不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性」が認められ、その付帯決議には「不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮すること」と明記されています。もはや子どもが不登校になっても、罪悪感を抱く必要はまったくありません。もちろん無理やり学校に戻す必要もありません。教育は子どもの「権利」であって、「義務」ではない。法律的に見て、不登校の状態は何の問題もないのです。

2学期が始まる直前の8月末から9月初めは、子どもの自殺が増える時期です。尊い命が失われてしまう背景のひとつに、不登校があることは否めない事実でしょう。
お子さんが学校を休みたいと言った場合、その背後にはきっと何らかの理由があるはずです。どうかその理由を最大限に尊重して、学校に行かない自由を認めてあげてください。長い人生、少しぐらい寄り道をしても大丈夫。嘆かず、焦らず、怒らずに、ゆったりした気持ちでお子さんの今の状態を認めてあげましょう。
結果的に、それが不登校の問題を解消するいちばんの近道になるのだと思います。

  • プロフィール くらしの良品研究所スタッフ。16歳の子どもの父親。一般財団法人東京サドベリースクール外部理事。

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