MUJIキャラバン

循環する有機農場

2013年04月05日

有機農業の世界で、知らない人はいないといわれる場所が、
埼玉県にあると聞いて、訪れました。

埼玉県、小川町にある「霜里農場」。

「和紙のさと」としても知られる秩父山系に囲まれた丘陵地帯の農場では、
すべてが"自然の循環"のなかにありました。

「人の手を加えなくとも、自然は完全に循環している。
農薬や化学肥料を使わずとも、その循環の流れのなかで作物は作れるんです」

そう話すのは霜里農場の代表、金子美登さん。
今から40年以上前の1971年より、有機農業を手掛けるパイオニア的存在です。

「自然なら100年かかる循環サイクルを、
人の手を加えることで、10年に短縮してあげる技術。
それが有機農業なんです」

実際に、霜里農場には様々な循環サイクルがあふれていました。

まず、金子さんが有機農業で最も大切と話すのが"土づくり"。

自分の田畑で収穫した食べ物から生まれる生ごみや、雑木林の落ち葉や小枝、
おがくずやおからなどをコンポスターに集め、水分を調整しながら数回切り返します。

そうしてあげるだけで、微生物のドラマが始まると、金子さんはいいます。
20分ごとに倍に増殖していく微生物が、生きた堆肥を作り上げていくんだとか。

いい土ができれば、次は"いい種"。

近代農業では、種苗会社から種を買うのが一般的ですが、
それよりも自家採取してきた種に尽きると。

「昔から"品種に勝る技術はなし"といわれたほど、
農家が採ってきた自慢の種こそ、その地の気候風土に合った野菜が育つんです」

そして、有機農業では付きものの害虫対策でも、自然の循環の力を利用していました。

例えば、アブラムシが発生しやすい野菜の隣には、
アブラムシの天敵となるテントウムシが好む野菜を植える、といったように。

「天敵がバランス良く存在している状態がいいんです。
農薬を使うと、そのバランスが崩れてしまうし、
翌年にはその耐性を持った害虫がまた生まれてしまう」

農薬は悪循環を招くだけと、金子さんはいいます。

鶏や合鴨も飼っている霜里農場では、鶏小屋の周りに牛を放牧するようにしたところ、
キツネなどの獣害からも守られるようになったんだとか!

雑草やワラなど、農業で生じる副産物をエサとして与える代わりに、
鶏からは卵を、牛からは牛乳を貰い、合鴨は肉となります。

こうした自然の循環のなかにある霜里農場は、
エネルギーも当然、自然エネルギーによるものでした。

太陽光発電やチューブ内の水が温まる温水器をはじめ、
ガラス温室、糞尿からのバイオガスも活用。
耕運機やトラクター、乗用車はすべて、天ぷら油などの廃食油が燃料という徹底ぶり。

もはや無駄なものは何もないと思えるほどですが、
霜里農場では農場内のみならず、地域との循環も生みだしています。

霜里農場の農産物は、地元の酒蔵、醤油屋、パン屋、麺屋などに卸され、
地域の加工品として生まれ変わっていました。

何もかもうまくいっているかのような霜里農場ですが、
ここまで来るには、様々な背景があったそうです。

なかでも大きなポイントとして金子さんが挙げるのは、
消費者との提携です。

"提携"とは契約した消費者に農産物を送る仕組みで、
今や世界約40カ国でも導入されているんだそう。

「2ヘクタールの農地があれば、10軒の消費者分の作物を賄うことができます。
日本は自給できないのではなく、自給しない国づくりをしてきただけ」

金子さんは、"根の無い国は滅びる"と力を込めて語ります。
本来なら農業のうえに成り立つべき工業なのに、
工業だけが常に重要視され続ける特異な国が日本だ、と。

「今後は食とエネルギーが最大の問題になってきます。
国内に豊富に存在する草、森、水、土、太陽などの農的資源を徹底的に生かして、
食とエネルギーを自給する社会を作る生き方を選択するべき時が来ているのです」

有機農業・農村という文化を土台に、コミュニティ・共同体を作ってきた、
金子さんの約40年間の活動から学ぶべきことは多いです。

"人も有機的な関係が大切"と語る霜里農場では、
奇数月に1回、農場見学会を実施しており、毎年、数名の研修生も受け入れていました。

まずは知ること、そして選択すること。

私たち消費者もできることがあるかもしれません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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