MUJIキャラバン

マスキングテープの舞台裏

2014年11月26日

生活のあらゆるシーンで活躍してくれる、マスキングテープ。

シンプルな文具や雑貨、ギフト用ラッピングなど、使い方次第で
彩り豊かなオリジナルのグッズを生み出すことができます。

今では文具店や雑貨店、書店など、
私たちの身近なお店でも手に入るようになりましたが、
その仕掛け役が、岡山県倉敷市にある、一軒の工業用テープの専門メーカーでした。

カモ井加工紙株式会社は、1923年にハイトリ紙の製造からスタート
(岡山ではハエのことをハイというそう)。
その後、時代の流れに合わせて、粘着技術を生かした
養生(ようじょう)テープ(=マスキングテープ)の製造も手掛けるようになります。

養生(マスキング)には、"包み隠す""覆い隠す"などの意味があり、
養生テープとは塗装などの際に、作業部分以外を汚さないために貼る、
保護用の粘着テープのこと。

それまで工業用のテープとして販売してきた
カモ井加工紙のマスキングテープでしたが、
ひょんなことから、現在の雑貨としての地位も築くことになります。

「当社のマスキングテープ『mt』のはじまりは、2006年に届いた1通のメールだったんです」

とは、専務取締役の谷口幸生さん。

メールは、マスキングテープの熱烈なファンだという東京の3人の女性からで、
マスキングテープが作られている工場を取材したい、という内容だったそう。

初めての消費者からの要望に社内で対応に困っていると、
同じ女性たちから、今度は1冊の手づくりの本が送られてきました。

「他のメーカーのものとも比較しながら色の話や文字の書きやすさ、
自分たちのマスキングテープの使用例など、
徹底的にユーザー視点で研究がされていました。
これはただ者じゃないなと思って、お会いしたくなりましたね」

こうして彼女たちの工場取材は実現し、
「柄ものを作ってほしい」という要望を残して帰りました。

しかし、それまで工業用テープを大量ロットで生産してきたカモ井加工紙が、
すぐに雑貨用のマスキングテープを作るには至らなかったといいます。

「当時、工業用テープの売り上げが順調ななか、
多品種少量生産の雑貨用テープを手掛けることに対して、
社内の理解を得るのが大変でした」

mtの立ち上げに最初から関わってきた、
広報・企画担当の高塚新さんは、そう当時を振り返ります。

「テープの技術には絶対的な自信がありましたけど、
雑貨用になると、パッケージや販路など、ノウハウが全くありませんでしたから」

それでも工場見学の際に女性たちが興奮していた様子が忘れられず、
数ヵ月後に連絡を取り、2年という年月を経て
2008年3月にマスキングテープ「mt」を発売しました。

発売から6年、生み出されたmtの柄は1000を超え、
日本のみならず、フランス、台湾、オーストラリアほか、世界中で愛されています。

そんなmtの魅力は、選ぶ楽しみのあるデザインはもちろん、
「手で簡単に切れる」「貼って剥がせて繰り返し使える」「文字が書ける」など、
多様な機能性にもあります。

そして、そこには日本の和紙の性質が関係していました。

「最初から狙って使ってきたわけではないと思うんですが、
和紙は繊維を長くすいているから、薄くてしなやかな強度があります。
ただ、和紙は湿気などの気候の違いで、すぐに伸び縮みするため、
毎日カットする機械の幅をミリ単位で調整する必要があるんです」

と、作る難しさを製造課の古江係長が教えてくださいました。

今回工場を見学させてもらって目についたのが、
工場内の様々な場面でmtが活用されていたこと。

実は、カモ井加工紙では定期的にファクトリーツアーを開催しており、
一般ユーザーが生産現場を見学することができます。

工場内での機材やロッカーにデコレーションされているmtを見て、
使用の想像の幅が広がることもそうですが、
ファクトリーツアーの効果を谷口専務は次のように語ります。

「黙々とものづくりをしていた現場に、ある日突然ユーザーが来る。
すると直接、ユーザーの反応や声を聞くことができるんです。
ただ作るのではなく、ユーザーの気持ちを知りながらものづくりをしていきたいですね」

また、カモ井加工紙は積極的に
国内外で展示会やワークショップなどのイベントを行い、
ユーザーにmtを体感してもらう場も提供しています。

「私たちは従来、工業用製品のメーカーなので、使う用途を決めたがる傾向があります。
ただ、mtについては用途を決めなかったことがよかったんでしょうね。
お客様からの要望でその幅がどんどん広がっています」

高塚さんがそう話すように、mtは自転車や窓、
さらには車のデコレーションにまで、その装飾の対象はとどまることを知りません。

和紙でできているというと、水には弱いイメージがありますが、
特殊な和紙を使用しているため、
mtは貼った後に水に濡れても問題ないんだとか。

最近では、水を抜いた噴水にmtでデコレーションをしてから水を戻した、
mt噴水なるものも登場したといいます。

自分たちの"粘着技術"という得意分野を生かして、
雑貨用のマスキングテープという新たな市場を作り出した、カモ井加工紙。

その裏に一般ユーザーの声があり、
そこに真摯に向き合いながら歩んできた結果が、
今の世界中から愛される商品「mt」につながっているのだと知りました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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