MUJIキャラバン

日田の理想的なものづくり

2014年08月06日

大分県日田市大山町。
筑後川の本流にあたる大山川が流れ、四方を緑に囲まれた山深い場所です。

ここは「梅の里」としても知られ、毎年3月上旬から一斉に花が咲き始め、
辺りは梅の花の良い香りに囲まれるそうです。

大山町では、当時政府が米の増産を推進していた1961年に、
米作には不適な山地の地理的特性を生かして、
作業負担が軽く、収益性の高い梅や栗を栽培する
「NPC(New Plum and Chestnut)運動」を開始。

「梅栗植えてハワイに行こう!」というキャッチフレーズを掲げて推進し、
その結果、実際に全国でも住民のパスポート所持率が高い町になったとか。

「平成8(1996)年に特産品である梅の古木を活用した
ものづくりをしようという話がありまして」

そう話す矢羽田匡裕(やはたまさひろ)さんは、
26歳でサラリーマンを辞めて、農協主体の「梅の木工房」に参加。
もともと好きだったものづくりの分野で、
地元でできることを探していた時に、木工の世界に入りました。

矢羽田さんはその後独立し、
現在は大山町で工房「ウッドアート楽」を営んでいます。

「前職は金型設計の仕事でした。
自分の作ったものがどう役立っているのかが見えにくかった。
今は自分がゼロから作ったものに対するお客様の反応が明らかで、
うまくできたら売れるというのが面白いですね」

そんな矢羽田さんの工房の入り口で目に留まったのが、
成人の背丈よりも高い枝の束。

これは剪定した梅の枝でした。

枝の形状をそのまま生かし、矢羽田さんが手掛けたのがお箸。
梅の木独特の赤茶色の木肌がそのまま残された、
シンプルながら存在感のある逸品です。

それまで剪定された枝は、燃料になる他は廃棄されていたそうですが、
矢羽田さんは木と向き合う際に次のように考えると話します。

「木工の師匠から2つのことを教わったんです。
1つには、育つのに100年かかった木だから100年使えるものづくりをすること。
2つには、限りある資源だから無駄なく使うということ」

矢羽田さんはその考えのもと、梅のほかに、桜や杉などの地元材も使いながら
オリジナル商品の開発やOEM生産も行っています。

「日田には"絞り丸太"という、幹の表面に
天然の凹凸模様を持つ杉があり、昔は床柱に重宝されていました。
山主から『せっかくいい木があるんだから、何かに使えないか』
という話があって」

"九州の小京都"と呼ばれる日田市豆田町にある、
日田産の家具や雑貨を取り扱うセレクトショップ「Areas(エリアス)」
のオーナー兼デザイナーの仙崎雅彦さんは、お店を始めた当初から
矢羽田さんにものづくりをお願いしてきました。

通常、木材は芯(年輪の中心)を残したままだと
後から割れてしまうという課題があります。

それでも、独特の美しい波状模様を持つ、絞り丸太の年輪に惚れた仙崎さんは、
どうにかできないかと矢羽田さんに相談。

すると、木を切ってすぐの生木の状態で特殊加工を施すことで、
割れを解決することができると分かりました。

「これは山と加工場が近くないと実現できないものづくりですよね」

と、仙崎さん。

特殊加工された日田杉の絞り丸太は、
矢羽田さんの手によってひとつひとつ削られ、カップへと形を変えていきました。

この絞り丸太のカップは内側の年輪ももちろんですが、
カップの外側には、樹の表面の出絞(でしぼ)模様が現れ、
天然木ならではの、自然が生み出す意匠を楽しむことができます。

「日本は世界から"森林破壊のテロリスト"と呼ばれているんです。
日本は森林保有率を豪語しながら、
一方で海外の木材を使って、海外の森に影響を与えている。
森を守るためには木を使うことが必要なので、
もっと自国の木を使えば、みんながwin-winになれるんですよ」

森林に苗木を植えてから15~20年ほど経った後に
一部の木々を間引く"間伐"という作業がありますが、
どうせ後から間引くのなら最初から少なく植えればいいと思うかもしれません。

しかし、仙崎さんの話によると、
最初から少なく植えてしまうと、後から使うのが難しい木が育つんだとか。

「通常の木も間伐材も、それぞれにメリット・デメリットがあり、
その両方を伝えていかないといけない。
日本の森林を活用していくためには、
1次・2次・3次産業が三位一体でやっていく必要があると思っています」

消費者の声を聞き、山主さんとも直接つながる仙崎さんが商品を企画し、
地元の木材を活用して、木工のプロである矢羽田さんがそれを形にする。

理想的なものづくりが日田では行われていました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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